見えない檻

遠くに山が見えるが、すずは灰ケ峰がどちらか判らない

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p19)

嫁いでから一度、半年前の里帰りの時にしか平地部まで降りた事がないから。実質的には長ノ木に閉じ込められているようなもの。

因みに見えている山は、方角的には灰ケ峰と鉢巻山の間の山の筈だがシルエットは鉢巻山だろうか?

「ああ…… ……… みなさんに よろしう」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p22)

前頁の最後のコマで「朝日遊廓内」の文字を見て、かつリンの「この町から 出たこともない」という発言から、すずは「みなさん」が遊廓で働く女性であることに気づく。

そして「よそ者じゃし / この町から 出たこともない」は、実はすず自身にも当てはまるのだ。

広島で流行った柄

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p22)

すずの「古いよそいき」の余りの布を森田イトがリンの着物に縫い付けてやったからだ、と読者に思わせる効果があるが、実際には時期的にすずに出会える筈がない事を後にわざわざ作中で示している。

これは「大潮の頃」の「仕掛け」を読者に考えさせるきっかけであると同時に、この時点では、読者をも「思い込み」という思考の「檻」の中に閉じ込めている。

リンの境遇と教科書

「ここは 竜宮城か 何かかね !!!」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p21)

リンが無反応なのは、浦島太郎を知らないから。当時浦島太郎は教科書に載っていて、それで広まった。リンは半年しか小学校に通えていないので、それを読んでいないのだ。

「紅筆しか ないんじゃが…」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p23)

リンは字が書けないので使い道がないから、鉛筆は持っていない。紅筆は恐らくp21)で「姐さーん」と聞きに行った時に持ちだしてきたのだろう。

どうしてもすいかの絵を描いて貰いたかったリン

地面に描いたすいかとキャラメル

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p20)

すいかは、すずもリンも草津で食べている。キャラメルは、すずの場合は周作が結婚申し込みで訪ねてきた時の手土産で食べている。リンはいつ食べたのだろうか?

あるいは、周作がすずのところに手土産として持っていったように、リンにもあげたのかもしれない。それなのに、リンがすずに出したリクエストにキャラメルは含まれない。リンにとってそれはあまり印象に残らなかったということだろう。

鉛筆をかんざしのように髪に挿している

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p20)

「…郵便局から 二つ右の角を 上がるんと」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p21)

すずの右耳の後ろに鉛筆が。

「…ここらの人は みな不案内なけえね」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p21)

リンとすずの位置関係から、「ありがとう ございます!」の時点ですずは道順を聞けたのですぐに去ろうとしている。それを留めようと話を続けるリン。

左下のコマで、はやくも懐紙を取り出している

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p21)

すいかを描いて貰いたかった? そもそもリンは、初めからすいかを描いて貰いたくてすずに声をかけたのだろう。ただなかなか言い出せない。

「ほいじゃ… ありがとう ございます」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p22)

リンが差し出そうとしている懐紙に視線を留めたまま別れようとするすず。

左下のコマですずは足を揃えている

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p22)

立ち止まり「あの差し出そうとしている懐紙は何のつもりだろう?」と、リンが声をかけるのを待っている。次頁のコマでトンボがまだコマ内のうちにリンが声をかけている。

「アハッ何じゃ お安いご用じゃ」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p23)

リンが言いたげだった何かがわかって、安心するととも、自分の得意で好きな絵を描くことを求められて、リンに対する親しみを増したすず。

「じゃ はっか糖 / わらび餅 / あと あいすくりいむ」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p23)

すいかは草津で食べた思い出の食べ物。勿論赤いところつき。はっか糖、わらび餅も恐らく森田イトが食べさせたのだろう。あいすくりいむは二葉館に連れられて来る直前に「国防と産業大博覧会」の会場で。(周作に貰ったのだろう)キャラメルが入っていないのは、リンにとってそれはあまり優先度の高い思い出ではないから。

すずが理解したこと

「また 迷子に なるで!」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p24)

背景のトンボが次のコマでかなり移動している(雲の位置もかなり違う)ので、リンが(次のコマにかけて)右奥の男性に声をかけている様子を、すずは暫くの間見ていたのだとわかる。

中段のコマで鉛筆を戻してから下段右のコマで「二葉館」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p24)

すずはメモしていない。単に建物の名前を記憶したということではなく、この場所が何で、リン(名前を呼ばれたのですずはリンの名前を知っている)がどういう立場にあるのかを改めてそれなりに把握したということを表現する為なのだろう。

上段のコマの左端、下段左のコマのすずの背景が二葉館。扉の斜めの取っ手が目印。

中段右のコマのすずの笑顔

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p25)

「大潮の頃」の座敷童子の事を思い出して、再会できたと嬉しく思っている、と読者に思わせる効果があるが、後述の通りすずは座敷童子と直接会っているわけではない。森田イトから聞いた座敷童子はもしかすると彼女かもしれない、とは思ったかもしれないが。絵を描いてと頼まれたことが嬉しかったのだろう。


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  • 更新履歴
    • 2022/03/04 – v1.0
    • 2022/06/12 – v1.0.1(「尋常小学国語読本 巻三」へのリンクを追加)

1 thought on “第14回(19年8月)

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