何故か嫁の役割を免除されているすず
すずが肩から掛けているのはカバンではなく座布団
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p131)
荷物ではないので、身軽に桜の木に登れた。
「お重持たせんで 良かったわーー」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p138)
本来なら嫁のすずが荷物持ちの筈。何故かp131)で径子が持っている。前回晴美の代わりに荷物持ちをさせたお返しということか。お陰でリンとの交流が持てた。
「第41回 りんどうの秘密(20年10月)」につながるあれこれ
「すずさんは ニ河公園は 初めてかね?」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p132)
リンが初めてニ河公園に来たのは10年春の博覧会の時。一度だけ食べたあいすくりいむの思い出の場所。ちょうど10年前。ただ枝垂れ柳が描かれているので恐らく5月の会期末近く。
「木登りも 出来るで」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p133)
草津の森田家の屋根裏に潜む程度の運動能力は保持しているリン。
リンが言う「秘密」は、周作との事ではない
「ああ テルちゃんね」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p134)
すずが知らない名前を敢えて出すリン。勿論すずに名前を知って欲しいから。テルはtellにも通じる。何かすずに告げたい事がリンにはあるということ。それは単にテルが亡くなったということだけではない(それだけならすずには関係のないことなので、告げる必要はない)。
「テルちゃんは 死んだよ あの後肺炎を 起こしてね」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p134)
「うちゃアホの おかげか 風邪ひかん 体質ですけぇ」というすずとは対照的な運命。
「すずさんの 絵見て」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p134)
と言いながらリンも、大切な物を入れている懐中袋を取り出して見ている。その中にあるのは、テルの口紅と、恐らくはすずの描いた絵。
周作の書いた帳面の切れ端はもうないかもしれない(身許票は既に縫い付けてあるので、必要なくなったから)。
「秘密は 無かった ことになる」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p135)
と言いながら、すずの唇に「テルの」口紅を塗るリン。周作との関係の当てつけなら自分の紅を塗れば良さそうなのに何故テルの紅なのか?
それは、テルを結果的に死に追いやった若い水兵を切羽詰まらせたのがすずだから。
リンの言う「秘密」とは、テルの運命にすずが間接的に関わっていたこと。それにリンは気づいていた。しかしそれを敢えて話さず、でもテルのことを(関わりがあったのだから)記憶に留めて欲しくて、遺品である紅をすずに渡したのだ。
「それはそれで ゼイタクな事 かも知れんよ」「自分専用の お茶碗と同じ くらいにね」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p136)
つまり死んで記憶が無くなれば、秘密がなかったことになる、のではなく、秘密を独り占めできるので、自分専用のお茶碗を独り占めするのと同じようにゼイタクな事だ、と言っている。
そしてリンの細バカマがちらりと見えているのは、リンの本心がちらりと見えている象徴。
「周作さんが 笑うとって 安心しました」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p138)
リンが言う「秘密」が周作とのことのように思わせる効果があるが、これは単にすずの予想(妄想?)のどれとも違ったので「ああ周作さんは気持ちの整理がついてきたのかな」と安心したということ。
しかしこの安心はあっさり裏切られる(後にこっそり描いてあるのです…)。
そして、どうしようもない周作(そのどうしようもなさは後でこっそり描かれる)
周作がリンを見て、すれ違うまでの時間は、周作の前を横切る人の僅か数歩の間だけ
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p137)
そしてそれらのコマの視点はすずのそれ。7月2日未明の呉空襲後にすずがリンについて言及した時周作は驚いているので、それまですずとリンに接点があるとは知らなかっただろうから、この時リンは周作にすずの居場所を教えたりはしていないだろう。会話自体無かったかもしれない。
にもかかわらず…
「おかげで わしもさっき 知り合いに 会うた」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p138)
「おかげ」というのは、はぐれたすずを探しに来たおかげで、という意味。しかしこれにとどまらなかったのだな、実は(上記の通り、後にこっそり描いてあるのです…)。
- 更新履歴
- 2022/03/11 – v1.0
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