径子達の気遣い

右上のコマで(芋入りとはいえ)2人分のご飯、中段左で浮かない表情のすず。

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p35)

前回の話の終わりで北條家のみならず読者もすずが妊娠したと認識している筈で、それに引き続きこの2つがくれば、それだけで何が起きたか了解できる。

また、径子の気遣いぶりも。

「がっかり してじゃ」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p38)

とすずは予想したが、北條家の中でがっかりしている風なのは晴美だけ。いや、内心はがっかりしているのだろうが、すずが気にやむことのないよう気を使っているのだろう。

「ちなみに これは おかゆさんの 上澄み」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p42)

あいすくりいむ ではなくて。

話のオチであると同時に、p35)扉でのさりげない径子達の気遣いを強調する効果もある。

リンの境遇と辿った径

「病院? どっか 悪いん?」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p36)

恐らくテルも肺炎を起こすまで(起こしても?)病院に連れて行って貰えなかった。病院に行くのはよほどのこと、というのがリンの認識なのだろう。

「小学校へは 半年通うたけえ」 / 「しまいにゃ お産で死んだよ」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p37, p39

「第41回 りんどうの秘密」によればリンが売られたのは芋のとれる秋なので、直後なら小学1年に売られたとも考えられるが、赤子をおぶっているということは首がすわっているわけだから、恐らく母が出産で亡くなり、赤子の面倒をみるため小学校に行けなくなったのが小学1年の秋で、その翌年の秋(8歳=小学2年)に売られ、9歳=小学3年の夏迄に売られた先を逃げ出して草津の森田イトに匿われたのだろう(「大潮の頃」は(10年8月)だからその前年ということ)。

「ほーー / じょーー ……… / ……… ……… ……… 」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p37)

長いリーダーは、勿論周作の苗字と同じだな、と気づいてのこと。ただし第14回でキャラメルの絵は求めなかったことからも、リンにとって周作は、さほど重要度は高くない存在。

「居ったら居ったで 支えんなるよね」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p41)

リンは母が亡くなってからは小学校にも行けずに赤子の面倒を見て、さらにお金のために売られた。支えになっている…

「子供でも 売られても それなりに 生きとる / 誰でも何かが足らんくらいで この世界に居場所はそうそう 無うなりゃせんよ すずさん」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p41)

子供でも(リンは母の代わりに子守をして)家を支えていたし、売られても(リンも売られたが)死ぬような「そんなに恐ろしい事」とまでは。

下段右のコマですずの絵が入った巾着を大切そうに握るリン

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p42)

すずと別れた後も2階からずっと見送るリン。会うのはこれで2回目、3回目すずが訪ねてきたときは会えず(その代わり、テルが会った)、4回目が花見。

すずとリンの問答は、この後の物語(の重要な要素)に繋がっている

上段右のコマに箒がある

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p36)

訪ねたとき丁度リンは外で掃き掃除をしていたので、他の二葉館の人にすずは会わなかった。

そうでないと(二葉館の人に認識されてしまうと追い返されることがなくなるので)テルとの出会いもなかった筈。

p29)のノートの一部が切り取られた裏表紙と同じ紙

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p37)

「そりゃ 大丈夫 ……」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p37)

リンの巾着は19年11月のすずのモンペの継ぎ当ての布と同じ。かつ「大潮の頃」の森田イトの着物の柄と同じ。イトが端切れで巾着を作ってやり、古くなった着物を継ぎ当て用としてすずにあげたのかもしれない。

現役の継ぎ当てなので、その時にはすずは気づかなかったものの、何となくかもしれないが印象には残っていただろうし、それが第18回で気づくきっかけの一つとなったのだろう。

「白木リン」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p37)

「しらきりん」は「しらをきる」を連想させる。「しらを切る」は、知っているのに知らないふりをすること。

周作とのことについてなのは勿論だが、彼女が「しらを切る」のは実はそれだけに留まらない。後にテルに起きること(がすずに関係していること)についても、リンは知らないふりをする(聡いすずにはしっかり伝わったけれど)。

「あんたも 楽しみ なんかね?」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p39)

こう聞かず、「誰でも何かが足らんくらいで この世界に居場所はそうそう 無うなりゃせんよ すずさん」にいきなり飛んでも、外形的にはすずを励ますことにはなる。敢えて時間(と貴重なページ数…1話がたった8ページなのに!)を費やして問答させているのは、勿論すずが自身で考えて結論に至る方が(ただ言われるだけよりも)納得感が高いから。

「世の男の人は みな戦地で 命懸けじゃけえ」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p39)

読者は誰もが疑問に思う。何故周作は戦地に行っていないのか? その理由も(後述の通り)本編中に描かれている。

「それがヨメの ギムじゃろう」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p39)

恐らく両親や周りの大人達からそう聞かされ続けていたので、それを真似して話しているが、あまり深く考えたことがない、ということで片仮名になっている。(男性)読者も深く考えたことがない、かもしれないし。


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  • 更新履歴
    • 2022/03/05 – v1.0
    • 2022/03/30 – v1.0.1(誤字修正)

1 thought on “第16回(19年9月)

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