約束を守ろうと

下段のコマですずが何かを帳面に書き留めている

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p27)

メモしているのはあいすくりいむかもしれない。でも結局「よう分からんくて!」だったのは、文書で作り方が書いてあるだけだったからかもしれない。見ている雑誌風のものの下に紐付きの板のようなものがあるが、回覧板だろうか?

家父長制下、自己中心的であることに気づかない周作(あるいは男達)

寝るのは同じ頃でも起きるのはすずが先

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p28)

しかもすずは夜明け前、周作は夜が明けてから。

「うちへは 姉ちゃんも 母ちゃんも 居るんじゃし」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p31)

家事労働の担い手として、具合の悪い母親まで含めながら、自分や父親は当然のように含めない。嫁であるすずとしては、気遣いはありがたいものの、根本的なところで立場が改善されるわけでもなく(すずが不在ならその分の家事労働は径子かサンが余計に担うわけだし)、加えて「映画でも観て 食堂で雑炊でも よばれ」ればすずが喜ぶだろうと何の相談もなく(夫とはいえ他人である)周作に決めつけられ、その勝手ぶりにやや複雑な気分。

「過ぎた事 選ばんかった道 / みな 覚めた夢と変わりやせんな / すずさん / あんたを選んだんは わしにとって多分 最良の現実じゃ」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p34)

周作にとっては最良かもしれないが、すずにとって最良かどうかは判らないのに。すずを持ち上げているようでいて自己中心的。もっと広げてみれば、周作を含む男達が選んだ戦争という現実が最良だと男達は思っているのか、とも考えられる(勿論、男性だから自己中心的という短絡的な話なのではなくて、家父長制の下、そういう傾向がより育まれる、ということだ)。

そんな周作にもいいところがある…のか?

ノートの裏表紙が切り取られている

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p28)

勿論、切り取られた紙片はリンの身元票に。でも実は、それは身元票として書かれたのではないのだ…

「あの…… おつとめは?」「終わりじゃ」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p31)

半ドンならこの日は土曜日。映画を観るには十分な時間がある、ということ。

そして「土曜日が半ドン」であることを(※当時「半ドン」が文字通り実施されていたかはわからないが、そうは言ってもいつもの平日よりは早く仕事を終えていたとすれば)、読者は「第30回(20年5月)」でもう一度思い起こす必要があるのだ。

「急ぎでもないのに ワザと持って 来さしたんじゃ!」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p31)

21年1月、周作はわざわざすずを広島に呼び出している(一人でも呉まで帰れるのに)。そうでもしないと(嫁という立場の)すずは広島に帰ることができなかったから。周作はそういう気遣い(自己中心的ではあるが)をする人間であるということを予め描いている。

「どこで間違ったのか」

「夢から覚める とでも思うん じゃろか / 今 覚めたら 面白うない」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p33)

ここで言う「夢」というのはどの範囲を指すのだろうか?

里帰りで「呉へお嫁に 行った夢 見とったわ !!」と言っているので呉に嫁いだ事全体を指すように思わせられるが、「周作さんに 親切にして貰うて / お友達も 出来て」というすずの発言を踏まえれば、ここで、覚めて欲しくないな、とすずが考えた範囲は「リンと友達になって周作が息抜きを気遣ってくれる」部分だろうか。

右手を無くして意識がはっきりしていないかのような時に「どこで間違ったのか」とすずは自問するが、この小春橋に至る一連の場面はその分岐点の一つ(ここですずが周作との暮らしに傾かなければ、後述する二つの「死」は無かったかも、とすずはその時考えた)なのだろう。

p32)ですずが水原哲に会うのを躊躇う描写も、19年4月の水原哲を想うあまり転落していた頃から、すずが分岐点を越えて(選んで)変わりつつある事を描いている。

「今のうちが ほんまのうちなら ええ思うんです」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p33)

加えて後述の通り、実はすずは「ほんまのうち」ではないのだ(周作にとって、だが)。間違ったのはすずだけではない。周作もまた「間違った」。


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  • 更新履歴
    • 2022/03/04 – v1.0
    • 2022/03/05 – v1.0.1(男性だから自己中心的という短絡的な話ではない旨付記)
    • 2022/06/01 – v1.1(「土曜日が半ドン」を後程思い出す必要があることを追記。「夢」の範囲についてすずの台詞に基づき再整理。)

1 thought on “第15回(19年9月)

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