硯と墨と筆と
上段のコマ、すずは(縁側ではなく)板の間(書斎)にいて、晴美は仏壇に駆け寄っている
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p105)
晴美だけが「第5回(19年3月)」ですずが径子に追い出されそうになっていると正確に認識していて、そのせいでハゲたのだと思い、何とかしたかったのだろう。
仏壇には過去帳があるはずだが、それとあわせて硯や筆がしまわれている(で、晴美はそれを知っている)のだろうか。仏壇の扉には鍵がかけられていて、晴美は開けることができず、径子にねだらざるをえなかったということか。
「そこら中まっ黒に するでしょうが あんたは」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p112)
墨をせがむ晴美を径子が叱るが、後ほど自分たちで家を墨で塗る羽目になる(「第29回(20年4月)」下巻p8)「敵機の標的にならぬやう 白壁は黒塗りする」)。
回覧板で何を想う?
「鉄道は戦ふ足だ」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p106)
回覧板の順序は、知多→堂本→北條→刈谷。すずは描かれている軍人を見て水原哲を思い出していたのだろうか。
「回覧板 でーす」「はあい」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p106)
回覧板に返事をする刈谷。「第42回 晴れそめの径(20年11月)」下巻p114)で刈谷が回覧板に返事しないことの異様さへの伏線。
会話をしているようでいて、実は互いに違うことを言っているすずと周作
「広島が恋しう なったんか」「なっと らんです」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p108)
広島ではない。恋しくなるとしたら水原哲。もちろん「第6回(19年3月)」ですみに指摘されたことがきっかけ。「(水原哲が)遠くから 来とってかも 知れんし…」。
しかも、「第21回(19年12月)」には(すずの期待通り)本当に水原哲が「遠くから来」るのだ。
「めじろが 飛んどるで」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p109)
筆箱の絵が「梅に鶯」ではなく「梅にメジロ」だという事に気づいて貰うための仕掛け。
「「お帰り」言うたってくれ すずさん」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p111)
水原哲が乗船しているかもしれない大和(※p107)で周作に向かって飛んでいったように見えたたんぽぽの綿毛が、大和に向かっていく)に、思わず見入るすず(で、そのまま落下する)。
ところで周作は里帰りから戻ったすずに「お帰り」と言ったのだろうか?
「バレてましたか」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p112)
周作は、「ハゲを」気にしよったらひどうなるで…と言っているのだが、すずは「水原哲を」気にしよったらハゲ…たのがバレてました…ねと返しているのだ。
(この時点で周作は水原哲の存在を知らないので、かみ合わないのも無理はないが)
- 更新履歴
- 2022/02/25 – v1.0
- 2022/02/26 – v1.0.1(板の間が書斎であることを明記)
- 2022/05/24 – v1.1(たんぽぽの綿毛についての記載他を修正)
- 2023/03/13 – v1.1.1(関係する投稿へのリンク、「次へ進む」のリンクを追加)
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