暑さで鈍る思考

左下の2コマで晴美に気づかず躓く

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p11)

暑さで思考が鈍っている。砂糖壺を水瓶に浮かべる(迄台詞が無い描写も、すずの認識力の低下を反映している。)という、前回の軍艦写生に続く些か非常識な思いつきの伏線。

下段右と中央のコマの、妙に広い上側のアキ

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p13)

暑さのあまり通常の思考が止められてしまって「頭が真っ白な状態」である事を表している。

上段左のすずの思いつきの図解

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p13)

水で蟻を防ぐなら、菓子鉢に水をはって真ん中に砂糖壺を置くだけで良かったのに、前のコマで晴美が巾着に入れる提案をしたものだから、ついそれ(ぶら下げる巾着)の拡大版として、水瓶の中に砂糖壺をいわば「ぶら下げる」発想に至ってしまったすず。

なお、水瓶は陶器製だが、焼成の過程で降りかかった灰が溶けて釉薬代わりとなる鉄自然釉と呼ばれるものだと思われる。水瓶鉄、ということで、水原哲の名前の由来かもしれない。

家父長制下での過酷な家計(すずの予想を含む)

左上のコマにサンのへそくり

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p14)

1円紙幣6枚、5円紙幣2枚で合計16円。なので今月の生活費は9円。砂糖の配給停止は8月1日で、巡査の初任給が45円の時代だから、生活費は給料のほんの一部。つまり周作は結婚後も、二葉館で遊ぶくらいのお金を持っている筈(これは後ほどこっそり描かれる「あること」の前提になる)。

「ヤミ市で 買うて 来んさい」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p14)

サンが怒ることもなく虎の子のへそくりを差し出すのは、すずが国民学校まで連れて行ってくれた事をとても感謝していることも背景にあるのだろう。晴美は大金であると判らず驚かないが、すずは驚いている。

「いまにお砂糖が」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p18)

ヤミ市を知らなかったとおぼしきすずにしてみれば突然のハイパーインフレなので、さらに想像をたくましくするのも無理はない。砂糖150円もキャラメル100円超えも靴下3足千円も勿論現代の普通の価格。加えて戦後直後の下巻p122)では砂糖1斤180円。

遊廓への道

左上のコマ、晴美の下駄は大人用

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p12)

デザインからみて、径子の下駄を履いていると思われる。子供用の自分の下駄もある筈だが、鼻緒が切れたりしたのだろうか。

また、径子はこの時不在のようだ。第17回で伯父に紹介状を書いてもらってはいるものの、それに先立ち自ら勤め先を探すために出かけているのかもしれない。そのおかげ(?)で、すずは貴重な砂糖を見事に全損し、遊廓に迷い込む展開に繋がっている。

中段右のコマですずの前にいる人は左隣のコマに繋がっている

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p15)

この前後3コマは影の向きが違う。時間がさほど経過していないなら、すずは左旋回していることになる。

東泉場(闇市)から朝日遊廓へも左折だが、p18)で太陽の向きはそのままにすずは左旋回している。

「ほいで ここは どこね!?」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p18)

すずの右側に半分だけ見える人は誰? 朝日遊廓にアッパッパ姿の人は見当たらないが。


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    • 2022/03/03 – v1.0

1 thought on “第13回(19年8月)

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