いきなり仕掛けが

上段、中段、下段のコマは全て繋がっているので、下段左上の足は叔母のマリナの足

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p53)

海苔干し場の場面は一つの場所をコマで区切って時間の流れ(手前に向かって干している海苔が増えている)も表現している。なのにマリナ(波のうさぎではキセノ)の足はコマを跨いでいる。これは、単一のコマ内に別の時間の様子が描かれる事も(この漫画では)ある、ということを示していて、それはこの物語のある重要な矛盾(「第41回 りんどうの秘密(20年10月)」p108)中段右のコマ)をとくのに必要となる定義なのだ。

「ほしたら『はい 新なのを一本 持て来ました』言うんで」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p58)

この上段中央のコマと、下段のコマは繋がっている。灯火管制の覆いはあるが「大潮の頃」p27)の電灯と同じ位置。下段のコマですずの顔の向こうの壁が崩れているが、「大潮の頃」p26)下段のコマにも同様の崩れが見えるので、「大潮の頃」の(少なくともp26))は現実の場面。

「珍奇な女」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p64)

もしすずが椿柄の友禅を被っていなければ、周作か円太郎がすずのほくろに気づき、その結果(代用品の回で明らかになる理由により)この物語は始まることなく終わっていた(勿論そもそも出会わせなければ気づく危険もないのだが、後述の「ええ話じゃったけ 受けといたったで」をさりげなく紛れ込ませるオチの為にはこのコミカルな出逢いは必要だった)。だから友禅を森田イトに渡させたのもイト的なのだ。

森田家の謎

「おばあちゃんは どっから来ん さったん?」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p56)

この時千鶴子は10歳。同居しているのにイトの出身地を知らないのも妙。イトと同居してからまだ日が浅いのではと思われるが、「森田の叔父さん」とマリナは10年8月には既にイトと同居していた筈。

「叔父ちゃん そっくり とは…」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p54)

草津の「森田の叔父さん」はすずの母キセノの弟になるので、血の繋がりがあるなら(性別は違うといえど)似ていてもそれほど不自然ではないのに、このすずの反応。
そして、対応する「波のうさぎ」のコマではp36)「鉛筆替えっこ しよっか!」。
何かが「替えっこ」されているのかもしれない。

存在しない「海苔の宵闇」

「うちも海苔を 作りよりましたが」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p61)

海苔が話題になっている(が、近隣の海苔づくりは廃業させられているので目に入ることはないはず)ことからすると、コマには描かれていないが、「冬の記憶」ですずが作った、月や星をくりぬいた「海苔の宵闇」と同じ物を周作が持参していたのだろうか。もし「冬の記憶」が実際に周作が体験したそのままなら、すずに思い出して貰おうと「海苔の宵闇」と同じ海苔を用意するだろうし、それを読者に示すのも自然な事。

他方、次のコマで森永ミルクキャラメルを描いているのは、「珍しい」手土産がそれだけだと読者に思わせる効果がある。そうするとこの場面で「海苔」もあるのにそれを具体的に描けない理由があるはず。

それはその「海苔」が普通の海苔であって「海苔の宵闇」ではないからなのだろう。つまりこの時点で、すずのみならず周作にとっても「海苔の宵闇」は存在しない事が示されている。少なくとも「冬の記憶」の「海苔の宵闇」は(物語上での)後年(21年1月より後)の創作なのだろう。

すずも周作も、珍奇ではない

右下の4つのコマ、左にすいた海苔が段々と積み上がっている

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p55)

工程をなぞりつつ、すずの手際の良さを表している。すずは決して「ぼーっと」はしていない。

「お前の母ちゃんが たまげて大声で 電話しよったせいで 皆 知っとるわ」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p60)

当時電話は殆ど普及していなかったが、電報では大声を上げたりしないので水原哲も含め「皆知っとる」状態にならないことから、あえて電話を使ったという設定にしたのだと思われる。

「あせったー! うちゃてっきり あんたかと!!」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p61)

「…期待していたのに」というところまでは、口に出せなかったすず。(重巡青葉乗務中の水原哲が結婚を申し込みに来るというのはそもそも考えにくいことではあるが、そうはいっても、前頁で呉→軍港→水兵→水原哲と連想するなど)今時の普通の女性と変わるところのない、(水原哲も「…ほう でもない 思うがの」と言っているのに)すれ違う初恋。

「電停探して 山へ登る人も 珍奇なが」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p64)

扇状地の先端部に住む浦野家にとって山といえば江波山だが、これは山といってもちょっとした丘程度。急勾配の続く灰が峰の中腹に住む北條家にとっては平地とさして変わらないもので、迷い込んでも「珍奇」というほどの違和感はない。

「ええ話じゃったけ 受けといたったで」

こうの史代(2008)『この世界の片隅に 上』双葉社. p64)

本人の意向は無視されている。家父長制がすずに振るう「暴力」が第1話から描かれている。


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    • 2022/02/16 – v1.0

1 thought on “第1回(18年12月)

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