キレイな死体

「おーい誰か手ぇ 貸してくれ…」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p37)

中巻p128)で「ありゃ まだ 片付けんの かね」と放置された死体とは対照的に、人々が急いで片付けようとするのは、リンが言ったように「キレイな死体」だからではなく、その正反対だから。p41)「丁寧に泥を払われ 拾い集められていった その人には 永遠に 届かない」

「病院も重傷者で 満員になってすぐ 追い出されたわい」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p38)

追い出されたのは円太郎。

「ここらでも爆音で 内臓がひっくり返りそうなかったわ」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p38)

「〜なかったわ」は「〜だったわ」の広島弁。

「内臓が」という現実の声から、飛び散った晴美を思い出し、そこから次のコマで「すいか」を連想し、すいかで思い出される、リンに描いてあげた絵を次々に思い出している。
また「ひっくり返りそう」という現実の声から、左下のコマの「右手に 風呂敷 / 左手に 晴美さん」という実際(は右手に晴美だった)をひっくり返すことを想像している。

あいす くりいむも はっか糖もしらぬまま

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p39)

リンの仕草はあいすくりいむの説明をしている時のもの。

左上から2番目のコマに、白い布に包まれた桐箱と線香の煙

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p41)

晴美が亡くなったことが示唆されている。

「丁寧に泥を払われ 拾い集められていった その人には 永遠に 届かない」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p41)

絵では一切描かれていないが、時限爆弾によって晴美の身体がバラバラに飛び散ったことと、それをすずが目にしていることが強く示唆されている。

どこで 間違ったのか

「側溝でも あれば 良かったのに」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p38)

繋がっているように描かれている右隣のコマはペンで描かれているのに対し、このコマは鉛筆描きなので、すずの希望的イメージ。なので実際にはなかった側溝が描かれている。

「ほりゃまた ちがう ちがう」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p38)

p37)下段中央のコマの笹柄は、時限爆弾の火花から、着ている着物の笹柄を連想したのだろうか。

連想はその着物を仕立てた時のイトおばあちゃんとの会話に及び、裁縫の手順を間違えたというところから一連の「間違ったのか」連想に続くのだが、ここですずが、母のキセノではなくイトから裁縫を教わっているのは、初夜の指南(傘問答)をしたのも何故かイトである(で、それには理由がある)ということに気づいて貰おう、という仕掛け。

「すいか わらび餅 はっか糖 そうか」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p38)

あいすくりいむは間違えた絵。「そうか」に置き換わっているのは、(絵を間違えたように今回も)自分が間違えたのだ、と思い至ったということ。

「どこで 間違ったのか」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p40)

という独白とともに思い出しているのは、水原哲と納屋で過ごした時の膝枕と土産の羽根。テルと会っていた(心中未遂した)水兵が水原哲だと気づいての連想。

中巻p90)「…………難しいわ / 口に出すんも 顔に 出すんも」で出せなかった想いを水原哲に伝えることができれば、違っていたかもしれない。すず自身も、あの時伝えられなかったことが、人生の分岐点だったように認識していたのかもしれない。

「やめえ 径子」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p41)

唯一の円太郎が径子を叱る言葉。円太郎も「晴美を疎開さして貰え」と自分が提案しなければ…と悔いていることだろう。その心中たるや。

すずは大怪我しているにも関わらず、起き上がって径子の叫びを聞いている。

似とりんさる

「ほんまに周作さんに 似とりんさる」

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p39)

絵を描いてあげたリンと、下段右のコマですずの視界にいた径子から、(すずとすみが全く似ていないのには理由があるのだが、一方で周作と径子がよく似ているものだから、常々連想する癖があったのか)5月に訓練に出て以来1月以上会っていない周作を連想。

さらにすず自身から見た周作との関係が、テルから見た水兵(=水原哲だとすずは思っている)との関係に「似とりんさる」ものだから、次のページの、小春橋での周作とのデートと、さらにすずは直接見ていないテルと水兵の逢瀬がダブルイメージで重なる連想に繋がっている。

下段中央下のコマに、防空壕から出た後に水を貰った人の後姿

こうの史代(2009)『この世界の片隅に 下』双葉社. p39)

家を壊されて立ち尽くしていた。居場所をなくしたというすずとの共通点(=似とりんさる)。


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  • 更新履歴
    • 2022/03/20 – v1.0
    • 2022/06/30 – v1.1(「ほりゃまた ちがう ちがう」を追記)

1 thought on “第33回(20年6月)

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