径子の意地悪ではない
「…今日は すずさんには 寄らんのん」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p52)
竹やり作りを予定していると聞いた径子が、近づくと危険と考えて晴美に言いつけたもの。結果、すずは一人となることで、晴美に気を取られることなく、りんどうの秘密に気づくことが出来た。
「滑るけえ そこに居り」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p52)
径子の意地悪なのかと思うすず。晴美が居るのは「第40回(20年9月)」で径子が滑り落ちる場所の辺り。滑りやすいということを予め描いている。
継ぎ当ての柄
上段中央のすずの左足の膝の継ぎ当てと、リンの袋の柄が同じ
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p54)
この継ぎ当ては晴美初登場の「第5回(19年3月)」で既に登場している。「大潮の頃(10年8月)」で森田イトが着ていた着物と同じ柄。また結婚式の日「第2回(19年2月)」にキセノやすみが持っていた風呂敷とも同じ柄。
径子に「作れ今すぐ」と言われるまで仕立て直しをしたことのなさそうなすずであるので、この継ぎ当てのもんぺはその状態で浦野家から持参したか、あるいは継ぎ当て用に持参した布かもしれない。
- いずれにしても、リンが森田イトと現実に接点を持っていたことは間違いない。
- しかし10年春にはリンは呉に移動している(「第41回 りんどうの秘密(20年10月)」参照)。
- 「9年8月なのにすずの記憶違い」だとしても8年生まれ(※「第20回(19年11月)」で明らかにされる)の千鶴子がいないのはおかしい。
- 8年8月だとしてもマリナが千鶴子を妊娠していそうなのにしていないし、
- そもそも「冬の記憶(9年1月)」が9年1月であり、話の順序が時系列でなくなる。
さて?
リンとの別れの経緯
左上のコマで、リンの目の前で取り出そうとしているのは手切れ金?
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p55)
中段で周作と思しき人が涙を落としながら帳面に何か書こうとしていて、次に誰かがその切れ端を持っている。
涙を落としているコマの上のコマで帳面を出している鞄は、持ち手が自立していないので、周作が通勤時に使っている鞄ではない。そもそも帳面は、出勤時には北條家の書斎の机の抽斗の中にある(だからすずが日中に見つけることができたのだし)。これは、周作が(帳面持参で)どこかに呼び出された時の様子。
呼び出されたのは、おそらくリンの件で。
で、話し合いの結果、手切金か何かを誰か別の人(呼び出した人かも)がリンに渡すという事になり、その際、相手の女の名前と居所を書くよう求められたのだろう。それで涙ながら書いたと。
だから、周作は(あのリンが持つ帳面の切れ端を)身許票のつもりで書いたのではなかったのだ。
血液型と振り仮名は、この切れ端がのちに(恐らくは身許票代わりに)リンに渡された時、リンが読めるように(リンはカタカナなら読める)、また、身許票としては血液型が必要だということで誰かが書き足したもので、血液型の記載が不自然に左端に寄っているのは、後から書き足した為だろう。
昭和18年と題されたノート
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p56)
リンが持つ切れ端に彼女の名前を記したのが、すずとの婚姻の前年ということ。
すずが「知ってしまう」予感、そしてすずの怒り
「ほいでも なんで 知らんでええことか どうかは 知ってしまうまで 判らんのかね」
こうの史代(2008)『この世界の片隅に 中』双葉社. p58)
知ってしまうこととは、周作とリンの関係の事…と読者は思うだろう。
- それに加えて
- 「第28回(20年4月)」や「第39回(20年8月)」で「知ってしまうこと」の伏線にもなっている。
- しかもこれが「第28回(20年4月)」(内容的には「第25回(20年2月)」の関係のこと)と「第39回(20年8月)」の伏線でもあることを暗示するように、この回ですずがせっせと作っているのは(帝国の最終兵器)竹やりである。
- 「第28回(20年4月)」や「第39回(20年8月)」で「知ってしまうこと」の伏線にもなっている。